ベルギー骨董事情(その2)

                                            野原紳嗣

今回ご紹介するベルギーのアンティーク・フェアは、首都ブラッセルの北、車で約40分の都市アントワープの Kastel Den Brandt で1998年5月26日から6月1日まで開催された Allure Antique & Decoration Fair だ。
アントワープはベルギー随一の商業都市であり、アントワープ無くしてベルギーの経済は成り立たないとまで言われている。歴史上でも重要な都市で、ヨーロッパで最初の証券取引所が開かれたり、1605年にヨーロッパ初の活版印刷の新聞がプランタンとモレタスによって発行されたり、また16-17世紀にかけて活躍Lた画家ルーベンスの館も町の中心地にある。

そして私達はワイフの友人 Tammy(オランダ、ハーグ市)と一緒にブースを借り、彼女はランプや室内装飾品を、私達はいつものように根付や置物を販売した。このフェアはアンティークだけでなく、室内装飾やガーデン・デコレーションなど、幅広い商品構成でありながら特徴のある品で溢れていた。会場の人口を入ると右手にガーデン・ファニチュアのブースがあり、そこにあるすべての商品は自然の素材を使ったものであった。町中のカフェやレストランのテラスで見かけるようなプラスティックの物でなく、上質の木製テーブルや椅子などの庭園家具であり、ガラスの風防の付いた鉄製のキャンドル・スタンドなどガーデン・ライフをエンジョイするためには欠かせない物ばかりである。

入口の正面がこの城のメイン・ビルディングで、アンティーク家具やアール・ヌーヴォーのナンシー・スクールのガラス器を扱うディーラーが入っている。その中でも、光っているのがゲイのカップルのブースだ。商品一つ一つを見れば他の高級品を扱うディーラーと変わりはないが、ブース全体の商品構成は趣味の良い洗練されたリビング・ルームが引越してきたよう。また客の持てなしが素晴らしくうまく、彼等は商品を売るというよりは、客が来ればワインやチーズなどで接待し、それも口の肥えた客が楽しめる物で、雑談をしているうちにいつの間にか商売をしてしまう。彼ら自身、商売を、そして人生をエンジョイしている。

このメイン・ビルディングの裏は拡大な芝生庭園であり、仮設のテントが80程用意され、各ディーラーが入っている。この芝生庭園を一周するお堀があり、その外側に別の芝生庭園が広がり、さらにその外側には森がある。一周するのに徒歩で40分程かかる。
メイン・ビルディングを出てすぐ右側にはワイフの友人 Diederik(オランダ、ハーグ市)のブースがある。彼はアンティーク家具とデコレーション商品を交えて売っており、手作りの暖かい感じのする高さ40cmくらいの大理石の塔にブロンズのエンジェルが腰掛けているのがとても可愛かった。彼もゲイ。そして彼の顧客で靴のヒール部に小さなガラス玉でイニシャルを入れている洒落た着こなしをした男性がいた。後で知ったのだが、イニシャルに使われていたのはガラス玉ではなく、ダイアモンドだったのだ。彼はアントワープでも有名な高級ブティックのオーナーで、顧客はヨーロッパ各国からやって来るそうだ。彼もゲイである。ゲイのセンスの良さはどの分野でも群を抜くものがある。

他にも多くの素晴らしいブースがあるが、中でも私が気に入ったのは車庫を売っているブースだ。この車庫を建て始めた頃から見ていたのだが、家としては高さが低かった。しかし柱や梁も堅固な木材を使い、屋根は瓦葺きだし、まさかこれが車庫だとは夢にも思わなかった。フェアの初日、英国の車ジャガーEタイプが中に入っているのを見て初めてこれが車庫だと理解できた。日本でこんな洒落た車庫を作る人が何人いるだろうか。広い敷地に森があってそんな中にこの車庫を建てれば似合うのだろう。

このフェアのオーガナイザーはオランダ人で、スタッフも全てオランダから来ている。このフェアの初日はあいにく雨が降り会場は所々ぬかるみができたせいで、各ブース内は客が入ってくれば絨毯が泥だらけになってしまう状態だった。このオーガナイザーの対応は非常に早く、ぬかるみには木の桟を置き、各ブースの入り口にはマットを用意して対応した。こんなきめ細かな素早い対応ができるオーガナイザーはそんなに多くない。彼はフェアを楽しくする事を考えていて、初日は夕刻からカクテル・パーティーを開き、来場客も参加ディーラーも一緒になって楽しむと同時に商談もうまく進んでいく。二日目にはクラシック・コンサートが芝生庭園の中央に設置されたレストランで午後八時から始まり、招待客と共に二時間余りの楽しい一時を過ごすことができた。三日目にはハリング・パーティー(ハリングはオランダの刺身)、四日目にはシャンペン・パーティーと、ほぼ毎日フェアの終了後の午後七時から入場客も参加ディーラーも交えて楽しんだ。

日本でも同じ事だが、顧客との心の繋がりがとても大事で、これらのパーティはベルギー版接待とでもいうところだろうか。どのディーラーも商品を売る前に、いかに楽しくフェアを盛り上げるか考えていて、商品構成やディスプレイはもちろんのこと、客を迎えた時いかに楽しく持てなすか、その用意に一生懸命だ。
日本でもいつの日かこんな楽しいアンティーク・フェアが開かれるのを期待している。


この稿は野原紳嗣氏によるものです
感想等は、info@nihongo.com までお願いします。
1999年2月23日

本稿は筆者が業界紙「目の眼」1999年2月号に投稿されたものを
転載させていただきました。
なお、転載にあたり、編集および若干の変更をしております。

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