ベルギーにおいて情報処理と通信の分野で
日本語環境を構築するための基礎知識

               s.a. HILLSIDE n.v.    大岡由之


企業にとっての経営上の考慮すべき基本的な要素として、昔から「人、物、金」とい うことが言われてきましたが、現在ではこれに「情報」を加えるのが普通です。
むしろ、今日では「情報」が第一に論ぜられるのが当たり前になってきてさえいます。
このように重要な「情報」の処理や受発信に日本語と英語または他の言語との共存に 苦労されている企業も多いようです。 中には情報処理や通信が専門ではないのに仕 事上コンピュータを購入したり、そこで日本語環境と英語環境をどのようにして調和 させたらよいのかとお困りの方なども見受けられますので、ちょっとここで基礎的な 知識を述べてみることにいたします。 

ベルギーの公用語はフラマン語、フランス語、ドイツ語の三つですが、企業内では英 語を使っているところも多いようです。 これに、日本企業では日本語が加わります。  この日本語が最大の問題なのです。 何故なのでしょう。

簡単に言えば扱う文字の数が違うからです。 英文字は26文字、それに数字や記号 を入れても7つの電気信号(2の7乗=128種類の区別)があれば英文字を表すの に十分です。
フランス語、フラマン語やドイツ語も同じです。 しかし、日本語には常用漢字、人 名用漢字などがありますが、ワープロやコンピュータの関係では一般にJISで定め られているコードを使います。 これは全部で6353文字あります。 ですから、 数の上からだけでも1文字を表すのに電気信号が13(2の13乗=8192)必要 になります(実際にはJIS7の場合は14使用)。 コンピュータは8っの信号 (8ビット又は1バイトとも言う)を同時に処理する(近頃はもっと多くの8の倍数 の16、32、64を同時に処理する)仕組みになっていますので、英語の場合この 8っ一組(1バイト)で英文字が一つ表せるのです。 ところが、日本語はこの8っ の電気信号二組(2バイト)を使わないと一つの文字を表すことが出来ません。 こ れが以外にやっかいなのです。 このように文字を8つの電気信号二組で表す国をダ ブル・バイト圏と呼んで日本、韓国、台湾、中国などがこれにあたります。
フラマン語、フランス語、ドイツ語などを表すには、それなりの技術的な問題もあり ますが、この日本語の問題に比べれば問題はずっと小さいと言えましょう。 これら の国のように8つの電気信号一組(1バイト)で文字を表せる国をシングル・バイト 圏と呼びます。

さて、具体的にどのようにして日本語を使えるようにするのでしょうか?
これには二つの方法があります。 すなわち、「すべて日本語で環境を作る」方法と 「英語の環境の中で日本語を使う」方法です。 

「すべて日本語で環境を作る」知識は、そのまま当地で日本語を使うコンピュータを 購入するために役立つ知識になると言ってもよいでしょう。 

1)コンピュータ本体はDOS/V機にします。 なぜなら、最も重要なのは日本語
  DOSや日本語ウインドウズを使う必要があると言うことです。 なお、日本で
  は最大シェアのNECは当地ではメンテナンスが出来ません。 また、マックに
  はマックの別の世界がありますが、企業のシステムとしては一般的ではないので、
  ここではDOS/V機と言うことにしましょう。

2)キーボードは日本のもの(106日本語キーボード)がよいのですが、入手出来   なければ、少なくとも米国式キーボード(101英語キーボード)が望まれます   (英国式はポンドなどの表示が違うので避けましょう)。 なお、当地のAZE   RTYとも呼ばれる(文字の配列が左から右へAZERTYとなっている)   ベルギー式のキーボードは文字の配列も日本で使われているQWERTYとは異   なるので日本語を使われるなら避けるべきでしょう。 

3)プリンターは日本のものがよいのですが、メンテナンス(保守)に問題があります。   プリンターはプリンタードライバーがあること、そして少なくとも日本語対応の   ものでなくては実質的には使えません(その結果、当地で推奨できるプリンター   は限られてきます)。 

4)最後には日本語のアプリケーション・ソフトウェアが必要です。   特にOSによって対応する場合とそうでない場合があるので、注意が必要です。   このことは、プリンターのサポートとも関連するので注意しましよう。

当地でこれらの物を購入する場合、物にもよりますが、調達に2、3ヶ月かかること はよくありますので、この点は留意しておく必要があります。 日本のように秋葉原 に行けば必要な物は全部揃うと言う訳にはゆきません。

「英語環境の中で日本語を使う」方法は簡単です。 もともとコンピュータは英語圏 で発達してきたので、当地で購入できるコンピュータ関係のものは殆ど英語の環境を 作るものです。
英語のDOSと英語ウィンドウズが動くならば、ある種のソフトである程度日本語が 使えるようになります。 英語環境で動く日本語のワープロソフトも発売されていま す。 日本語が使えるインターネットソフトもでています。

「すべて日本語で環境を作る」方法と「英語環境の中で日本語を使う」方法のどちら がよいかを考えてみましょう。
答えから言えば、勿論、「すべて日本語で環境を作る」方法です。 もしも英語環境 で日本語が十分に使えて不便がないなら、誰も苦労してすべて日本語化して日本語環 境を作ったりはしないでしょう。
英語のウィンドウズ95が米国で発売されてから、日本語ウインドウズ95が発売さ れるまでに3ヶ月かかりその間に何百人もの人々が日本語化のために働いたのです (ですから、日本語バージョンのものはみな割高になるのです)。 もしも英語環境 で日本語が使え問題がないなら、こんなことは起こらないでしょう。
ウインドウズ95は一般のアプリケーション・ソフトとは異なるので話を別にしても、 「英語環境で日本語を使う」方法には制約があり、日本語ワープロなども使い勝手が よいとは義理にも言えません。 でも、すべて英語バージョンで済みますから価格的 には安くあがります。
現地のマネジャーに日本語化を頼むとこの手の日本語化ができることが多いものです。
日本語をフランス語やフラマン語と同じように考えた当然の帰結です。 なお、少々 の不便さは人間(日本人)の方が我慢するので、経費を安くしたいという向きにはこ の方法がよいでしょう。 (この方法には別の利点もあるのですが、本題からは外れ るので割愛します)

とりまとめて言えば、8っの電気信号を二つ組にして扱う日本語は数多くの文字を取 り扱えますし、その中には英語が含まれているのです。 「大は小を兼ねる」と申し ます。 逆に、英語環境で日本語を使うのは「小が大を兼ねる」ようなイメージで、 もともと無理があると思ってもよいでしょう。

日本語環境と英語環境とを共存、調和させる方法には二つの方法があります。
一つは日本語OSと英語OSとを切り替えて使う方法です。 もう一つは通信の機能 を利用して日本語環境と英語環境を共存、調和させる方法です。 勿論、この二つを 混ぜて使う方法が望ましいのかも知れません。

日本語DOS/Vは二つの機能を持っています。 すなわち、英語版のDOSの機能 と日本語処理のサブシステムです。 そしてSWITCHのコマンドで切り替えられ ます。 非常に便利なシステムです。 1台のコンピュータに二つの環境を作る最も よい方法です。 当地でも多くの企業で利用されています。 しかしながら、弱点も あります。 それは英語と日本語を使えばそれだけ余計にメモリを食うのです。  ですから、色々とにぎやかに使うと基本メモリが不足になりがちです。
DOS/Vはダブル・バイト圏の国のシステムに対応できるので、日本語を韓国語や 中国語にかえて、これらの国でも基本的にはこの方法がとられています。
なお、ウインドウズ95は先進の機能をアピールしていますが、基本的にDOS/V とは異なったOSの方式ですから、ウインドウズ95を導入するとDOS/Vは使え なくなり、切り替えて使う便利さは失われてしまいます。

特殊な方法で英語版のウィンドウズ95に日本語版95を同居させることにより、日 本語環境と英語環境とを共存、調和させる新しい方法が開発されましたので、これか らは、この方法が注目されるようになるでしょう。

通信の機能を利用して日本語環境と英語環境を共存、調和させる方法としては、第一 にLAN(ローカルエリアネットワーク)による方法があります。 これにはウイン ドウズNTやウインドウズ95のネットワーク機能を使うものと、LAN専門のソフ トを使う方法があります。
ウインドウズのネットワーク機能は安直ですから小さいグループのLANに向いてい ます。 ある程度の規模になれば、LAN専門のソフトを使う方がよいでしょう。  いずれの場合も(一部英語ソフトですむ場合もありますが)日本語ソフトで構築する ことが基本になります。

第二に、これから重要になるのは日本とのネットワークであったり、ヨーロッパ内の 支店や販売代理店、そして部品メーカーなどと結んだりすることでしょう。 その場 合には、インターネットなどの安価なネットワークの活用、そして受発注をはじめ業 務を電子的な手段を使って実施(処理)してゆくことを視野に入れて計画することが 重要でしょう。 なお、ネットワーク化に当たっては次に述べるような日本語独特の 問題があります。

英語のようにシングル・バイト圏の言葉の場合、8つの電気信号のうち7つの電気信 号で文字を表すことが出来るので、国際間の電子メールなどでは、7つだけを文字に 使い、残りの一つは確認やコントロールに使っています。 日本語の場合には基本的 にはJIS7と呼ばれる国際通信にも配慮した8つの電気信号のうちの7つをデータ として使う(これを二組使う)方式とシフトJISと呼ばれる8つの電気信号を全て データとして使う(これを二組使う)方式、コンピュータに依存した、例えばEUC と呼ばれるものの三つに分かれます。 
この中で日本で一番多く使われているのはシフトJISであると思われます。 パソ コン通信の殆どがこのシフトJISを使っています。 そして、日本で使えるこのシ フトJIS方式を国際間で使うとトラブルのもとになるのですから、注意が必要です。
(前述の電子メールのように7つの信号しか通さない場合があるからです)

余談ですが、新しい動きとしてユニコードと呼ばれる8っの電気信号を三組使って世 界中の言葉を表す方式が国際標準として採用されています。 これは日本でもJIS 規格になってはいるのですが、日本では悪評で現段階では実質的には使われていませ ん。

最後になりましたが、これまでに述べたのはほんの概論ですが、これらの基本的な知 識を基にシステムを構築なされば、日本語に関連したトラブルの多くが減るのではな いかと思います。 そして、これからどの様にして日本語環境と英語環境を調和させ ようかとお悩みの方も、是非参考になさってください。 


大岡由之 (おおおか・よしゆき)
感想等は、ooka@nihongo.com までお願いします。
1996年7月28日


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