カトレヤ類の植物分類上の位置づけ

| 学名命名の階層 | ラン科の特徴 | ランの分類 |

 

カトレヤは代表的なランです。それではランは植物分類上どのような位置付けにあるのでしょうか。

植物のおおまかな分類 

植物界 Plantae

原生生物界 Protista

菌類界 Mycota

原核生物界 Monera

種子植物(顕花植物)

種子で増える(花が咲く)

胞子植物(隠花植物)

胞子で増える(花が咲かない)

光合成しない(葉緑体なし)
菌糸でできている

原核細胞からなる単細胞性の生物

被子植物

胚珠を子房の中に保護する

裸子植物

胚珠が花の一部に裸のままある

維管束あり
維管束なし
双子葉植物

 網状脈

単子葉植物

平行脈

シダ植物

コケ植物

藻 類

(水中で生活)

地衣類

(菌類と藻類が共生する)

菌 類

細菌類

合弁花類
離弁花類

タンポポ、キク、アサガオ、ツツジ

エンドウ、サクラ、ハコベ

チューリップ、イネ、アヤメ、ススキ、ユリ、ラン

マツ、イチョウ、ソテツ、スギ

ワラビ、ゼンマイ、スギナ

スギゴケ、ゼニゴケ

ミカヅキモ、ワカメ、コンブ、アオミドロ

モジゴケ、カブトゴケ、リトマスゴケ

シイタケ、マツタケ、アオカビ、ミズカビ、酵母

乳酸菌、納豆菌、大腸菌、ビフィズス菌、風邪ウィルス

(注)藻類のうち、藍藻類と原核緑藻類は原核生物(界)に分類されます。

 

 

学名命名の階層

 

生物については、さまざまな方面での検討が進むにつれ、分類の階層 rank ができていきました。おおざっぱに書くと

界→門→綱→目→科→(族)→属→種

です。

「国際植物命名規約」 International Code of Bothanical Nomenclature (ICBN) に基づく、植物の学名の階層とそれによる Cattleya lubiata の表示は次の表のようになっています。

階層

Category

語尾の変化

Ending

例(カトレヤの場合)

Example


kingdom (regnum)

- (Not fixed)

植物界
Plantae


division or phylum (divisio, phylum)

-phyta
(not mandatory)

種子植物門
Spermatophyta

亜門
subdivision (subdivisio)

-phytina
(not mandatory)

被子植物亜門
Angiospermae 


class (classis)

-opsida
(not mandatory)

単子葉植物綱 Monocotyledonopsida

亜綱
subclass (subclassis)

-idae
(not mandatory)

ユリ亜綱
Liliidae


order (ordo)

-ales

ラン目
Orchidales


family (familia)

-aceae

ラン科
Orchidaceae

亜科
subfamily (subfamilia)

-oideae

セッコク亜科
Epidendroideae


tribe (tribus)

-eae

セッコク族
Epidendreae

亜族
subtribe (subtribus)

-inae

レリア亜族
Laeliinae


genus (genus)

- (Not fixed)

カトレヤ属
Cattleya

subgenus (subgenus)

There is no universal agreement among contemporary taxonomists dealing with the Slipper Orchids at these levels.

section (sectio)

series (series)

subseries (subseries)


species (species)

- (Not fixed), but must agree with gender of genus

カトレヤ・ラビアタ
Cattleya lubiata

亜種
subspecies (subspecies)

- (Not fixed)

-

変種
variety (varietas)

- (Not fixed), but must followed with var.

アルバ
var. alba

品種
form (forma)

- (Not fixed), but must followed with f. or forma

-


一番大きな分け方の単位「界」は、リンネの頃は植物界と動物界の2つでしたが、今は Whittaker の5界説が有力です。原核生物界(細菌、藍藻)・原生生物界(藻類、原生生物)・菌類(カビ、キノコ)・植物界・動物界、の五つです。

植物は(光合成しない(葉緑体なし)菌糸でできている菌類などを除くと)花が咲き、種子で増える、種子植物門(Spermatophyta)と花が咲かない、胞子で増える、胚珠がない植物(シダ植物やコケ植物など)とに分けられます。種子植物門は胚珠が花の一部に裸のままある裸子植物亜門(ソテツ、松など)と子房の中に保護する被子植物亜門(Angiospermae)に分けられます。
被子植物は葉が網状脈になっている双子葉植物綱(合弁花類=タンポポ、菊などと離弁花類=エンドウ、桜など)と平行脈になっている単子葉植物綱(Monocotyledonopsida)に分かれます。
単子葉植物綱(Monocotyledonopsida)にはオモダカ亜綱(Alismatidae)、ヤシ亜綱(Arecidae)、ツユクサ亜綱(Commelinidae)、ショウガ亜綱(Zingiberidae)、ユリ亜綱(Liliidae)があります。ユリ亜綱(Liliidae)にはユリ目とラン目(Orchidales)があります。ラン目(Orchidales)にはゲオシリス科、ヒナノシャクジョウ科、コルシア科、ラン科(Orchidaceae)があります。やっとラン科にたどり着きました。 

単子葉植物特徴

単子葉ですから子葉が1枚です。(これは、単子葉植物のもっとも端的な特徴で、子葉が1枚なのは、もともと2枚あった子葉が融合して1枚になったとする説が有力です。)花が3または3の倍数の構成要素から構成されています。(花被片(萼片、花弁)、雄しべ、雌しべは3または3の倍数を繰 りかえしてならんでいます。)

ランはユリ、バナナ、ヤシなどに近く、ユリの花とランの花を比較してみると

萼片の数

花弁の数

おしべ(雄蕊)

子房

構成配置

ユリ
放射相対
ヤクシマラン
3うち1は仮雄蕊
放射相対
一般のラン
2+ (唇弁)
2or1
左右相対

となります。ユリと比べると、基本からの進化(変化)がみられます。

 

ラン科の特徴

 

ラン科の特徴をまとめてみると、 

  1. 非常に大きな科で、原種は約 800 属、25000 種以上、交配種は約 300000 で年々増加中で、種分化が盛んであるとされています。
  2. 雄しべの花糸と雌しべの花柱が合体してカラム(蕊柱)を形成しています。
  3. 単子葉植物の特徴で述べたように3つあった雄しべは退化して2-1本になっています。
  4. 花の構成配置が(放射相対ではなく)左右相対で、花弁の一つが変化した唇弁を持っています。
  5. 花粉の粒が集まって花粉塊を作っている。
  6. 子房が下位で花の内側にあります。
  7. 多くのランでは何故か捻れあるいは上下逆転現象があります。特に唇弁は本来は垂れる形ではなく、上に向いているのが本来の位置なのです。ネジバナのように花自体が逆転しているものもあります。現在までのところ、蘭の花が上下逆に咲く理由は判っていません。ちなみに、ヤクシマランでは上下逆転現象はありません。しかし、パフィオペダラムではすでに上下逆転があります。
  8. 初根(主根)は崩壊し、不定根が根の機能を維持して側根となっています。(これは形態的には「ひげ根」をもつことを意味します。)
  9. 昆虫を利用した生殖が進んでいて、種毎に特定の蜂などと結びついたものが多いのも特徴です。
  10. 形態的には 2 cm から 4 m 位のものまであります。
  11. また、種子は非常に小さく( 0.1 - 1 mm)肉眼では粉のように見え、1果に数万から数百万粒を含んでいます。この種子は普通の植物の種子なら持っている胚乳を持っていない無胚乳種子(exalbuminous seed)と言われる種子で、薄い透明な外皮に包まれた未分化な胚があるだけです。このため、自然界では自力で発芽成長することができず、ラン菌の助けを借りて発芽成長します。

 

ラン科内部の分類 

 

ラン科の内部の分類ですが、色々な学説があり、特定されていません。ここでは一応、Dressler & Dodson に従って、六つの亜科を中心に説明します。  

Apostasioideae ヤクシマラン亜科
分類の比較表で判るように、ヤクシマランに代表される Apostasioideae はヤクシマラン科として独立した科でしたが、Dressler & Dodson はラン科に含めています。Apostasioideae はラン科植物の起源を探る上で、重要な役割を持っています。それは放射相対花であるからです。ランは放射相対花から左右相対花へと進化したと考えられています。
 
Cypripedioideae アツモリソウ亜科
そして、次なる進化は葯の数が3から2へ、2から1へと変化していったことにあると考えられ、葯が二つのアツモリソウやクマガエソウ、それにパフィオペダラムに代表される Cypripedioideae がこれに当たります。
 
これら二つの亜科以外の変化は学説により、異なるようです。
ここでは、分かりやすくSchlechter の考えた分類のための要素をあげてみます。
(1)葯の数
  二つのもの (Diandrae)
  一つのもの (Monandrae)
(2)花粉塊柄の位置
  下部に付く (Basitonae)
  頂部に付く (Acriotonae)
(3)花粉塊の状態
  粒質 (Polychondreae)
  ろう質 (Kerosphaepeae)
(4)花茎の出方
  頂生 (Acranthae)
  側生 (Pleuranthae)
(5)茎の生え方
  匍匐する (Sympodiales)
  直立する (Monopodiales)
Schlechter のこの考えはある程度の長い期間受け入れられてきました。
そして、1960 年になって Dressler & Dodson による見直しが行われ、
(1)花粉の硬さ
  やわらかな花粉
  かたい花粉
(2)葯の形
  真っ直ぐな葯
  内折れの葯
という新しい要素を導入して再編したのが残りの四つの亜科です。

 

Spiranthoideae ネジバナ亜科
主として地生ランで葯が一つのやわらかな花粉、そしてカラムの形と気孔を伴った中央周囲起原副細胞がみられることによって容易に識別できます。
 
Orchidoideae チドリ亜科
主として地生ランで葯が一つのやわらかな花粉、そして副細胞がなく、葯がカラムの柱頭まで伸びています。
 
Epidendroideae セッコク亜科
多くのものはかたい花粉ですが、それよりも、葯の発達にあります。大部分のものは若い花芽では立っていますが、発達すると葯がカラムの頂点を越えてカラムの中枢へ適切な角度まで、時には明らかに腹部までも曲がり折れます。
カトレヤはここに属します。
 
Epidendroideae セッコク亜科 の中には次の族があります。
Vanilleae バニラ族
Gastrodieae サカネラン族
Epipogieae
Arethuseae
Coelogyneae
Malaxideae セロジネ族
Cryptarrheneae
Calypsoeae ヒメホテイラン族
Epidendreae セッコク族(セッコク族の中には次の亜族があります。)
 
Eriinae
Podochilinae
Thelasiinae
Glomerinae
Laeliinae レリア亜族(=カトレヤ類、この下にカトレヤ属があります。)
Meiracylliinae
Pleurothallidinae
Dendrobiinae
Bulbophyllinae
Sunipiinae
 
Vandoideae バンダ亜科
多くのものはかたい花粉ですが、それよりも、葯の発達にあります。Epidendroideae セッコク亜科のものは葯が発達して曲がるのに対して、ごく初期の段階から曲がっているというのです。
 

分類の比較表

歴史的に見て主な三つの学説によるおおまかな分類上の差異の比較をしてみると次のようになります。(日本語訳は厳密なものではなく、理解を助けるための仮のものです。)

Lindley (1799-1865)

Schlechter (1872-1925)

Dressler & Dodson

Family Apostasiaceae
ヤクシマラン科

Family Apostasiaceae
ヤクシマラン科

Family Orchidaceae Subfamily Apostasioideae
ラン科ヤクシマラン亜科

Family Orchidaceae
Tribe Cypripedieae
ラン科アツモリソウ族

Family Orchidaceae
Subfamily Diandrae
ラン科二葯亜科

Subfamily Cypripedioideae
ラン科アツモリソウ亜科

Tribe Neottieae
ラン科Neottieae族

Subfamily Monandrae
Tribe Polychondreae
ラン科単葯亜科粒質花粉塊族

Subfamily Orchidoideae
Tribe Neottieae
ラン科チドリ亜科Neottieae族

Tribe Ophrydeae
ラン科Ophrydeae族

Tribe Ophrydeae
ラン科単葯亜科Ophrydeae族

Subfamily Orchidoideae
Tribe Orchideae
ラン科チドリ亜科チドリ族

Tribe Epidendreae
ラン科セッコク族

Tribe Kerosphaereae
ラン科単葯亜科ロウ質花粉塊族

Subfamily Epidendroideae
Tribe Epidendreae
ラン科セッコク亜科セッコク族

これからも判るように、色々な考え方があり、今後も色々な学説が登場してくるものと思われます。(今後、特に予想されるのは DNA の分析に基づく全く新しい角度からの学説の登場です。)