ジャック・ドロールがEC委員長を務めた十年は、ヨーロッパが統合に向かって大きく
動きだした時期である。 1987年に発効した単一欧州議定書に基づいて、93年にはEC創
立以来の夢であった市場統合が実現し、域内の物の流通から国境の壁が消えた。 92年2
月に調印された欧州連合条約(マーストリヒト条約)は、デンマークの国民投票でいった
んは否決されるといった曲折を経ながらも、93年11月に発効した。 この条約は、欧州の
通貨統合と並んで、外交・安全保障、内務・司法の面でも共通政策を確立し、将来的には
欧州の政治統合という遠大な目標をめざしている。 こうした動きの牽引者となったのが、
当時のEC委員長・ジャック・ドロールである。
著者のチャールズ・グラント氏は「エコノミスト」誌のブリュッセル特派員として、こ
の期間のECの動きをつぶさに取材している。 本書は、欧州統合への礎石を一つ一つ積
み上げていったドロールの活動を克明に追跡した記録であり、現代ヨーロッパ史の貴重な
証言である。 マーストリヒト条約の柱である通貨統合と政治連合がどのようにまとめら
れたかーーーこれまで知られていなかった事実も明らかにしてくれる。 また、訳者の伴
野文夫氏はかつてNHK特派員としてECを取材した経験があり、翻訳にあったて随所に
当時の経験が活かされている。
原書には「ジャックが建てた家」と副題がついている。 マーストリヒト条約によって
建設されたEU(ヨーロッパ連合)という家の間取りと、この家を建てた建築技師の素顔
を、あますところなく紹介してくれる一書である。
「EUを創った男 - ドロール時代十年の秘録」
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