EUの政治・経済面を扱った書籍は数多く出版されてきた。 本書は、EUの位置する
自然、そこで生活する人間集団、彼らが形成した具体的な産業・文化を地理学的視点から
分析し、さらにEU諸国の国民性の特徴を比較検討し、日本と特に関係の深かった英独仏
を、明治以降日本の近代化に及ぼした影響の面から、日本を含めて比較している。
EUを考える場合に、EUの地形・気候・植生・動物などの自然の多様性と、その基盤
の上に形成されてきた人種・言語・宗教などの、地域に根ざした論述は、地理学以外の分
野の人々の念頭にはほとんどないだけに貴重なものといえよう。
第一次・第二次・第三次産業の解説は本書の中核となるもので、各産業ごとに具体的事
例を農業政策・工業政策も含めて詳述、さらに国別の地域格差・地域政策にも言及、いず
れも豊富な分布図と分かり易い表や写真をふんだんに駆使してあり、さながらEUの産業
構造の絵巻物といった感じである。
EUのおもな農畜産物の分布図、ワールドエンタープライズの代表としてのICIの工
場分布図、EUを代表する航空機エアバス製造システムの地域結合図、バカンス観光客の
発生地と吸収地の観光流動図、州(県)単位別の国民一人当たりGDPと失業率の分布図、
その結果としての労働力の国際間移動図などは圧巻である。
1960年代以降の経済の高度成長以来、日本は経済面では欧米と肩を並べるようになり、
経済摩擦が顕在化してきた今日こそ、EUを地理的・歴史的にその成立と文化の根源に立
ち入って知る必要があり、そのための入門書としては最高のものであろう。
「EUの地理学」
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