「欧州連合 5億人の巨大市場ーEUは北へ東へ南へ拡大する」

(藤原豊司・田中俊郎著・東洋経済新報社)

 欧州連合(EU)は皮肉にも、基本的に共同市場にすぎなかった欧州共同体(EC)
から「単一通貨を持つ政治統合体」であるEUに脱皮するマーストリヒト(欧州連合)
条約に調印した直後から厳しい試練に直面、いまだにそのショックから立ち直れずにいる。

 最大の試練は通貨統合の挫折である。 条約の中心をなす通貨条項は1970年代以来進め
てきた経験も踏まえて三段階で統合を進め、早ければ97年、遅くとも99年までには単一通
貨ECUを創設するとうたった。 ところがデンマークが国民投票で批准を拒否するなど
の混乱から、将来ECUに収斂(しゅうれん)して行くべき為替相場メカニズム(ERM)
が大混乱に陥り、英、伊両国が離脱したほか、ERMの変動幅も15%という事実上のフロ
ート制の移行、97年はおろか今世紀中のECU発足も危ぶまれるに至った。

 70年代以来、加盟国の自主協力で進められてきた政治統合、つまり共通外交・安全保障
政策も、ソ連崩壊に伴う旧ユーゴスラビア分解の過程で激化した血なまぐさいボスニア・
ヘルツエゴビナ内戦に有効な措置を取れず、条約発効前に信用を失ってしまった。 条約
の三つ目の柱である内務・司法協力は城内国境手続きを廃止するシェンゲン協定の実施で
動き始めたが、これには英国や、イタリア、北欧諸国が参加せず、いびつな形での運営を
余儀なくされている。 こうした挫折はEC発足のローマ条約以来の成果である市場統合
にも影響、最も代表的な制度である共通農業政策(CAP)が、ウルグアイ・ラウンドも
絡んで大幅に手直しされたほか、今後中・東欧諸国が加盟すれば、ほとんど廃止に等しい
改革を余儀なくされる。

 にもかかわらず、EUは「拡大」の面では順調に成果を上げ、周辺諸国にとっては依然
魅力ある存在に映っているようである。 本書はEU法の権威、田中慶応義塾大教授が冒
頭その「拡大」や統合の歴史、マーストリヒト条約について概説、これを受けジャーナリ
ストの藤原氏が上述のような近年の動きを後付け、読みやすい入門書となっている。 今
年発足の世界貿易機関(WTO)や対日関係、近年注目を集めているアジアとの関係にも
触れ、グローバルな経済、貿易概観にもなっている。


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