<大人になった武蔵>

桃姫誕生

大岡みはる




 わが家の<武蔵>が今年の4月に日本から<茶茶姫>というお嫁さんを貰いました。 

そして、9月17日のことーーー我々を驚かすことがこの2匹によってなされたのです。


武蔵と茶々姫の禁じられた恋


人間の背の丈もある金網をよじ登って茶々姫を求める武蔵



 それは、その日の朝の8時50分頃です。 私が、朝食をとっていますと、茶茶姫(雌

の9カ月)のキャンという大きな澄んだ叫び声を聞きました。 あれ−と思って窓から庭

を見ますと、彼らの<秘め事>を見てしまったのです。 なんとま−武蔵(雄の2年7カ

月)が茶茶姫の上に乗っているではありませんか。 まだ茶茶姫には妊娠、出産は早いの

です! どうしよう! とすくんでいると、やっと武蔵が茶茶姫から離れようとしました

ので、オオやれやれと思った瞬間、あらっ−大変。武蔵が抜けなくなってしまい半回転。

 武蔵のお尻と茶茶姫のお尻がくっついてしまいました。 前方に頭が一つ。 後方にも

頭が一つ。連なった2匹の新婚夫婦が声一つ出さず、全くの静止状態。 私も勿論びっく

り仰天の静止状態。 息をするのも差し控えてしまう程です。 目の奥がガ−アンと痛く、

心臓が、どっきん、どっきんの不整脈。 二匹とももちろん照れているような、困ったよ

うな心配そうな複雑な真顔。 うっかり私が、或いは、何かが大きな音を出したり、大き

な動きが、何処かで起きたらこの武蔵と茶茶姫にどんなことが起きるか分かりません。 

 私は、2階にいる主人に室内電話で聞こえない位の小さな声でその状況を伝えました。

 彼もすぐ降りてきました。 ちょっとびっくりしたようですが、なんとま− 「その内

どうにかなるよ。 みんな、ちゃんと無事に生きてきてるのだから。」

と言って新聞を見たりしています。 15分は、過ぎてしまいました。 私は、落ちつい

てなどいられません。 ベルギーで、知る人ぞ知る、かの <ボヴィ先生>に電話をしま

した。 先生はおっしゃいました。 「1時間もかかる事もありますよ!」と。 とにか

く、まわりで静かに見守るしかないとの事。 −−−大変。 大変。


茶々姫




 ちょっと茶茶姫が、2、3歩前にそろりと動きました。 なにしろお互い後ろ向きの状

態でくっついているのですから、武蔵がそれに合わせて、2、3歩後ろに後ずさり。 ひ

やひやです。 まだ声一つ立てません。 茶茶姫のお腹かがゆっくり大きくうねります。

 腹式呼吸でもしているかのように見えます。 しばらくしてまた、茶茶姫が2、3歩前

進。 武蔵が素直に即後ずさり。 そんな事を少しずつ何回もくり返し、やっと30分位

して連結がはずれました。 武蔵と茶茶姫2匹ともそろって自分のを一生懸命なめていま

す。 さぞ痛かったのでしょう。 ほっとしました。 


ボヴィ(真理子)先生





 もちろん早速、ボヴィ先生にご報告。 ところが、今度は茶茶姫が妊娠してしまった確

立が高いと言う意見を吐かれました。 ついては、茶茶姫がまだ小さ過ぎるからコレコレ

と言う注射をお医者さまにしてもらい、子供が生まれないようにした方が良いともおっし

ゃいました。 それと、犬には、人間の目には、見えない透明な生理があるとも言うので

す。 だから、私は茶々姫の生理にも気がつかなかったのでしょう。 見えない生理なん

て! 何もかも私にとっては、初めての事ばかり。で、ともかく、今度は、お医者さまに

予約をいれなければなりません。 幸いにも、すぐ、30分後の予約がとれました。


 ま−そんな訳で、早速、動物病院へ行きました。 しかし、その避妊の注射は、結局の

ところ先生には、打って貰えませんでした。 茶茶姫がまだ若すぎるので注射はしない方

が良いとのこと。 また、妊娠の恐れは今回まだ無いでしょうとのこと。 後7、8日し

た頃が一番妊娠する可能性が高いと言う事なので、とにかく武蔵と茶茶姫を完全に別居状

態にする必要があると云う判断になりました。 帰るなり武蔵のホテルの手配でした。


 生まれるのか、生まれないのか? 半信半疑ですごした2カ月。 結局、ボヴィ先生の

診断が当たってしまいました。 


 11月16日の夜中から明け方近くまで、幾度か雌のワンチャンの遠吠のような鳴き声

に目覚まされ、その都度、由之さんと2人で階下に降りて行き(1週間前より雌ワンチャ

ンのお腹が少し大きくなっているのに気がつき、急遽、台所に入れてあげていたのです)

面倒をみたり、見守ったりしていました。 が、何事もなくやっと静かに落ちついたみた

いなので、眠りに戻りました。 朝の7時半頃いつものように私は、起きて下に降りてみ

ると猫みたいな声が台所の方から聞こえて来ました。 とっさにあらー! 「どこかに猫

が」と思い、遂、探してしまいました。 ところが、なんとまー、真っ黒な犬の赤ちゃん

がコロンところがって泣いていたのです。 ーーーいろいろとあって、今現在、元気にお

っぱいをちゅうちゅう吸っているのは一匹だけです。

こうやって1994年11月17日朝7時頃<桃子姫>が生まれたのです。 母子とも無

事のめでたし! めでたし! でした。 

 みなさま、是非、見てやってください。 <武蔵の快挙>を!


 母親の「茶々姫」は、身体全体で赤ちゃんをくるみ、なめまわし、鼻先で子犬をひっく

り返し、そしてまたなめ、時々キュキュキュと噛みを入れ、面倒をみ、しっかり守ってい

ます。 自分が庭でトイレを済ませた後は、すごい速さで赤ちゃんのところに飛んで帰り

ます。 誰が教えたわけでもないのに! ーーー感動! です。

生まれて今日で丁度2週間目です。 まだ子犬の目は、つぶったままなのですが、母親の

「茶々姫」はちょっと違った仕草をするようになりました。 めいっぱい大きく口を開け、

先ず、子犬の頭を噛みます。 それから、順次胴体、足の方へと噛んでゆきます。 もち

ろん、子犬は、ヒーヒーキャンキャンなのですが、何とその瞬間つぶっていた目がぱっと

開くのです。 驚き!と厳粛!ーーー神様は、すごいですね。 こうしてきっと目も開き、

よちよち歩き、ひとりでオシッコもし、そこらのものをガリガリ噛むようにもなるのでし

ょう。 ーーーところで、遅ればせながら、子犬は、雌ちゃんです! 昨日お医者さまに

見せるまで、私は、てっきり雄と思い、そう決め込んでいました。 ところが、さすが、

由之さんは、完ぺきな人です! タマタマはあるけどオシッコの出る棒なり何なりがない

と疑問を持ちぶつぶつ言っていたのです。 赤ちゃんだからまだ目立たないものと私は、

決めてしまっていました。 あなたさまだってきっとお間違いになると思いますよ!


約2ヶ月になった桃姫と武蔵






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1997年3月1日

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