<青年期の武蔵>

犬のコンクールで過ごした一日

大岡みはる




 6月26日(日)。 私達夫婦はわが家の2匹の犬(北海道犬の雄の「武蔵」と雌の子

犬の「茶々姫」)を車に乗せてオランダとの国境の近くの町エッセンへと向かいました。

 今日はBVA/AVAと言う団体が主催して犬のコンクール(ドッグ・ショウ)が開か

れるのです。 

 ドッグ・ショウといってもピンからキリまであって、今回のものは国内チャンピオンの

資格認定証(CAC)は出せても国際チャンピオンの資格認定証(CACIB)は出せな

い大会なので、あまり大きなものではないようだと応募要領を見た時から感じていました。

にもかかわらず、参加することにしたのは、昨年の秋以降どこかのショウに参加したいと

思いながらもタイミングが会わずに延び延びになっていたのと、どの様にして私どもの名

前や住所を知ったのか、先方からわざわざ案内を受けたからなのです。


 ベルギーのアントワープからオランダのブレダに向かう高速道路の4番をおりて、旧街

道を北上すること約20キロ、目的地のエッセンはノンビリした田舎の町でした。 会場

の体育館はすぐに見つかりました。 入口で形どおりに犬の狂犬病予防注射の証明や犬の

健康状態のチェックをした後、ここでは係員がわざわざ席に案内してくれました。 

 席に着いて周囲を眺めると会場の中央には何と大きな日本の国旗らしきものが広げて掛

かっているではありませんか。 らしきものというのは日本の国旗にしては中央の日の丸

にあたる赤い円形が全体に比べて馬鹿に小さいのです。 そう、手作りの日本の国旗だっ

たのです。 参加者は私どもを除き、総てベルギー人かオランダ人のようですが、連れて

きている犬はみんな日本犬なのです。 主催団体のBVA/ABAの最後のAは二つとも

AKITA(秋田)のAだったのです。 日本語にすればベルギー秋田犬協会といったと

ころです。 しかし、秋田犬だけではなく、日本犬全部を対象にした実質的にはベルギー

日本犬協会とも言えるものでした。 

 ですから、今日のコンクールも日本犬だけのコンクールでした。 そして、運営は総て

会員の現地の人達で日本人や日系企業の応援は見あたりませんでした。


 後で判ったことなのですが、秋田犬協会というのはドイツにもあり、去年のドルトムン

トでの第一回ヨーロッパ日本犬コンクールはそのドイツ秋田犬協会が窓口になり、日本の

JKC(ジャパン・ケンネル・クラブ)の強力なバック・アップで実現し、成功裏に終わ

りました。 来年に予定されるこのヨーロッパ日本犬コンクールの開催を打診されている

フランスでは日本犬の協会は存在せず。 北方犬協会というものがあるものの、シベリア

ン・ハスキーや他の犬の手前、日本犬だけの大会に力を入れることが出来ず困っているよ

うな話も聞きました。


 審査は日本犬だけに限られていることもあってか、ものものしく、馬鹿に丁寧で時間の

掛かること掛かること。 待っている身には辛く感じられました。 それにしても日本犬

がベルギーやオランダにこんなに沢山いるとは思いもしませんでした。

 犬の種類では一番多いのが秋田犬、次いで柴犬です。  秋田犬は日本の秋田犬とは違っ

たアメリカン秋田と呼ばれるものが多いようです。 これは戦後日本からアメリカに渡っ

た秋田犬が欧州に入ってきたもので、多くの犬は口の周りが黒くてぶくっと大きく、全体

的に西洋犬のような骨格をしています。 数年前まではこの種の秋田犬がブームだったと

のことです。 


 審査が始まってすぐに主催者が私達のところにやってきて、日本から輸入したばかりの

「茶々姫」をベルギーで登録する方法をこと細かく説明してくれました。 途中から隣の

席の女性も一緒になって書類は書留よりも自分で持って行った方がよいとか、色々とアド

バイスしてくれました。 お陰様で要領がわかったので、来週にでも手続きをしてこよう

と思います。 それにしても、みんな親切な人達です。


 昼休みには、くじ引きの「ロット」が売り出されました。 試しに100フラン買って

置きました。 いよいよ景品の発表の時になって、次々と番号が呼ばれていくのに、私達

のは一つも呼ばれません。 中には二つも三つも当たっている人もいるのに近くの番号す

ら呼ばれないのです。 そのうち最後がきてしまいました。 なーんだ残念、と思ったと

たん、最後に呼ばれた番号が私達のものでした。 いそいそと前にでてゆきました。 み

んなが注目しています。 景品は圧力鍋でした。 ラッキー。 


 午後になって、ようやくわが家の犬達の出番がきました。 

わが家の北海道犬は珍しさもうけて、審査のために登場する際に主催者から特にアナウン

スがあり、北海道犬の説明がなされました。「武蔵」はもう慣れてきて立ち居振る舞いも

よかったのですが、「茶々姫」の方は臆病風にふかれたのか、尻尾を下げてしまい散々の

体たらくでした。


 審査の結果、わが家の「武蔵」は審査員からベルギー・チャンピオンの資格があると誉

めて貰いました。 実際にチャンピオンになるには異なる複数のジャッジから資格認定証

を貰わないとチャンピオンにはなれないのです。 わが家の「武蔵」も前回のハッセルト

での大会でチャンピオンの資格認定証を貰っていますので、今回のと合わせ、いよいよベ

ルギー・チャンピオンになれる訳です。

立ち居振る舞いが散々だった「茶々姫」はそれでも子犬としての素質が認められてベスト

・パピイの賞品の盾をもらいました。 上出来、上出来!


 それから、秋田犬で最後まで優勝を争い、惜しくも負けてしまった犬の名前がなんと

「ヤクザ」と言う名前なのです。 これにはさすがの私もびっくりしてしまいました。

この国の人々は日本人よりも犬を大切にして家族の一員のように扱っています。 その家

族の一員が「ヤクザ、ヤクザ」と呼ばれているのですよ!

 犬にどんな名前を付けようが飼い主の勝手です。 人間様でさえ日本で「悪魔」ちゃん

騒動があった位ですから、況んや犬に於いておや、と言った所でしょうか。 でも、日本

ではちょっと出会わないネーミングです。  私達も時折こちらの人から日本犬の名前の

相談を受けることがあるのですが、多分もっと身近に日本人がいたら、こんな名前を付け

させることはしなかったのではないでしょうか。 


 この大会で優勝した秋田犬はアメリカン秋田ではなく、どちらかと言えば日本式の秋田

犬でした。 全犬種(とはいっても、日本犬だけですが)を通じて優勝したのは柴犬でし

た。 


 無事にコンクールも終了して、主催者と審査員に今日一日のお礼と挨拶にゆきました。

 来年も是非来てくれとのことでしたので、またの再会を約して別れました。

 帰りの車の中では「アーア、疲れた」と私達二人は共にグロッキーでした。 勿論犬達

も疲れて寝ています。 今日は「武蔵」も頑張ったし、「茶々姫」にもいい経験になった

し、圧力鍋のおまけまでついて、まずは「めでたし、めでたし」でした。

 また、よくもあんなに大勢の人が長時間のコンクールに付き合っているものだと二人と

も感心してしまいました。

「それにしてもあの日本の旗はどうにかならないだろうか?」

「是非、来年までには正式な日本の国旗を寄付してあげたいわね。」

と二人の話題は自然に会場の中央に飾られていた旗の話になりました。  
                                                     おわり



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1997年3月1日

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