そして、これらの殆どが日本だけの現象で外国にはない現象であることも充分に理解して
おく必要があります。
結局、世界的にみれば日本だけが非常に片寄った特殊な世界を形成している訳で、ダイヤ
モンドの本質を見失っているという世界的な非難(一方では儲け口であるとしての歓迎)
が起こっても不思議ではありません。 そして、本当の意味での消費者の利益を考えない
業者の姿勢は、結局自分達に災いとなって戻ってくることを知るべきです。 例えば、購
入者がどうしてもダイヤモンドを処分しなければならなくなった時に、割高な値段で買っ
ただけ高く売れはしないでしょう。 折角、世界的な規模でダイヤモンドの価値を築いて
きた人々の期待を裏切り、購入者に不信や落胆を残すことになるのではないでしょうか?
日本の鑑定書(品質保証書)へのカット評価の記載
国際的にはダイヤモンドの評価は4Cによってなされます。 このうちカットだけがその
評価について国際的な表示方法などの統一がとれていない分野なのです。
日本では 1980年代の後半からバブル景気にのってダイヤモンドの消費が急激に増加しま
した。 そして、業者は消費者の無知をいいことにして主としてインドから儲け率の大き
い粗悪なカットのダイヤモンドを大量に輸入したのです。
なにしろ、消費者にとってはダイヤモンドは、まず第一にカラット数が問題で、次いでカ
ラーとクラリティーとなっていて、カットの重要性を認識している人は半数程度しかいま
せん。 その認識している人達でさえ、本当に理解している訳ではない人々が大部分なの
です。
そこで、普通 1.0 カラットの原石から平均 0.5 カラットの研磨済みのダイヤモンドが得
られるとして、厳密な形にカットをしなければ 0.7 カラットの研磨済みダイヤモンドを
得ることだって不可能ではありません。 このようなカットの悪いダイヤモンドを安く見
せかけて売りだしたのです。 この為に正規にカットされたダイヤモンドを輸入している
業者はカットの違いを強調したいために、日本の鑑定書(品質保証書)にカットのグレー
ドを載せるように圧力をかけたわけです。 その上、新規に参入してきた業者は自らカッ
トの評価をできる程の知識もありません。 そこで、カット・グレードの載った鑑定書
(品質保証書)がここでも必要だったのです。 この様にして日本の鑑定書(品質保証書)
の多くににカット・グレードが記載されるようになってゆきました。
当初はカット・グレードはGIAの教育システムの中でも使われている4段階の評価方式
による記載が中心でした。
GIAの鑑定書(品質保証書)にはカットのグレードが記載されていません。 その点、
HRDの鑑定書(品質保証書)にはカットについてもプロポーションとフィニッシュに分
かれてはいるもののグレードが明記されていますので、素人の人にも分かりやすい一歩進
んだ形の鑑定書(品質保証書)となっています。 しかしながら、一歩進んだ形のHRD
でもカットとして一本に統一されている訳ではありません。 そんな中での日本のカット
・グレードとしての統一記載です。 日本は進んでいるのでしょうか? 確かにカット・
グレードを記載することは消費者にとって理解しやすいでしょう。 しかし、問題はその
中身なのです。
GIAやHRDがカットのグレーディング統一をしていないのは何故なのでしょうか?
一つ目の理由はカットの善し悪しは専門家が判断すべきだという立場です。 専門家がカ
ットのグレーディングによって得た収入はダイヤモンド宝飾品の総売上の 1.5% になると
言われています。
二つ目の理由は好みの問題です。 ラウンド・ブリリアント形に限って言っても、GIA
はトルコフスキーの形に固執していますが、HRDはより新しいユーリッツなどの形に近
いヨーロピアン・カットと言われるものです。 特にテーブルの直径が心持ちHRDのも
のの方が大きいのです。 その結果、1カラットの石の直径がHRDの方が大きく、輝き
も多いのですが、ファイアは若干控えめです。 これがラウンド・ブリリアント以外の形
では、様々な形があり、問題はもっと複雑です。 「どの様な形を好むかは購入者の好み
の問題で、業者が勝手に形を決めて押しつけるべきではない」と言うのがグレーディング
に反対の人の言い分です。 なお、HRDの場合は Very good と Good の違いは主観的
なものであるが、Unusual は客観的な評価であるとしています。
では、日本の場合はこれらの問題を解決したのでしょうか?
実際には何も解決していないのです。 仮に一つ目の理由を日本には専門家はいないし、
将来も必要ないと割り切ったとしても、二つ目の理由である好みの問題をトルコフスキー
の形にむりやり統一することは消費者の好みを制限する事になるのです。 そればかりか、
原石から研磨済みダイヤモンドを得る歩留りがわるく、生産者にとっても不都合ですし、
結果的には消費者の利益にはつながらないのです。
エクセレント・グレード EXCELLENT GRADE の導入
ところが、1989年頃からカットに EXCELLENT という言葉がそれまでに使われていた4段
階評価よりも上位のものとして一部の業者によって使われだしたのです。
この EXCELLENNT が日本で普及するのに時間はかかりませんでした。 なにしろ、伝統と
か論理的な仕組みなどは考えず、自己の利益だけを追求する日本の価格競争が差別化の必
要性を持っていたからです。 そして、日本の「宝石鑑別団体協議会」が EXCELLENT を
含む5段階の評価基準を設定したのです。 この評価基準には強制力はありませんが、業
界団体が設定した意味は大きく、その結果、日本では最高のカットは EXCELLENT という
事になったのです。
しかしながら、本当に EXCELLENT が最高のカットかどうかについては疑問があります。
何しろ日本の EXCELLENT でもヨーロッパの3段階評価でプロポーションが VERY GOOD の
範囲には入らないものさえ存在するのですから。 ところが価格面では国際的にもこの
EXCELLENT に該当するものに日本の需要が集中したためと、もともと歩留りの悪いカット
である事も手伝って、2ー3割程度の割高になっているのが実状です。 日本人はわざわ
ざ商品を高く買う仕組みを作ってしまったのです。
ですから、ダイヤモンドの本場ベルギーで最高のカットのものを買って帰っても、日本で
は、最高のカットとはされない(何故なら評価基準が違うから)という現実は認識してお
くべきでしょう。
その後、日本以外の国で、日本の業界団体が決めたエクセレント・グレードの基準を採用
する動きはありませんし、勿論、HRDでも追づいする動きはまったくありません。
解せないハートの見えるダイヤモンドのヒット
日本ではハートの見えるダイヤモンドがヒットしています。 これは「専用のスコープで
覗くとハートが出現し、カットグレードが判断できる」をうたい文句としているものです。
ラウンド・ブリリアント・カットのダイヤモンドの中で、ある特定のプロポーションを備
えたもののことで、具体的には
これらの条件を満たしたものはパビリオン側から専用のスコープで覗くとハートが現れる
9-15 度ずらすこと
といいます。
また、同様にクラウン側から見ればアローが出現するといいます。
シンメトリーが完全でないとハートが現れませんから、お客様にはハートを見せてシンメ
トリーが完全であることを納得してもらい、3割程度高く売れるといいます。
問題点はシンメトリーとプロポーションとは違いますから、例えば、ガードルが基準以上
に厚くてもハートは現れますから、全体のプロポーションを判定することは出来ないので
す。 ですから、カット・グレードをハートの出現で判断することは出来ないのです。
にもかかわらず、カット・グレードが判断出来るように喧伝し、お客様に結果的に高いも
のを買わせてしまうところに問題があります。
日本の特殊事情に前述のカット・グレードの EXCELLENT がありますが、これがハートの
見えるダイヤモンドと連動していないことからも問題が生じています。 EXCELLENT のも
のは大体ハートが見えるようですが、逆にハートが見えるものが EXCELLENT とは限らな
いのです。 中には2段階下のカット・グレードである GOOD でもハートの見えるものが
あるといいます。 そこでうたい文句の「カット・グレードが判断できる」というのは誤
りではないかと問題になっているのです。
大手百貨店がこのブームの火つけ役だといいますから驚きです。
ファセット面の多いカット
日本ではカラット数が小さいにも係わらずファセットの数を多くしたものが流行っていま
す。
例えば、144 面にカットした、○○○○○○ダイヤモンドとか、究極の燦きを追求した
194 面の○○○○○○とか宣伝されています。
素人はカットの数が多ければそれだけ輝きも多いように簡単に考えてしまいますが、これ
は誤りで、如何なる面もその長さが 3mm よりも長くなく、0.5mm よりも大きくないと適
度な光の分散と輝きは得られないと言われています。 メレと呼ばれる小さなダイヤモン
ドにシングル・カット(17面)のようにカットの数の少ない形が使われるのはそのため
です。 面の数を多くすればそれだけファイアは少なく輝きは弱く単に白ぽく見えるよう
になってしまいます。 ですから、144 面や 194 面の形はカラット数の大きな石(10 カ
ラット以上)に使用すべきで 1.0 カラット程度の石に使用すべき形(カット)ではない
のです。
日本における鑑定(評価のバラツキ)の現状
これから述べる問題は必ずしも日本だけの問題とは言えませんが、日本の現状を知る上で
は重要であると考えられるので、あえて述べることと致します。
日本では殆どのダイヤモンドに日本語の鑑定書(品質保証書)がついています。 そして
鑑定書(品質保証書)には大なり小なり主観的な要素が含まれるので、評価の結果に若干
のバラツキが出るのはやむを得ないとされていますが、日本の場合には明らかに問題があ
ると指摘されています。 勿論、良心的な鑑定業者が大部分であると信じたいのですが、
中小の業者の中には実際には問題が多いのも確かなようです。 ここでは、日経ジュエリ
ーの 1994年 10月号に指摘された例をもとに検討してみましょう。 この記事の中では鑑
定業者は「(鑑定を)甘くすることが鑑定書のシェアアップの方策だ」としています。
ここで指摘されている4個のダイヤモンドは日本の二つの鑑定機関で鑑定され、
1個目の石はカラーで1段階、
2個目の石はカラーで1段階、クラリティーで1段階、カットで1段階の合計3段階、
3個目の石はカラーで1段階、クラリティーで1段階、カットで1段階の合計3段階、
4個目の石はカットで2段階の差があるのです。
1段階の差は価格で仮に 15% の違いがあるとすれば、3段階も違えば価格は 45% も違う
ことになります。 こんなことが許されてよいのでしょうか?
同誌では「輸入業者が利益をだすために、Si2 と Il とのボーダーラインの石を 100 個
買い、それを鑑定に出して Si2 の評価がいくつ得られるかで利幅を広げているという。
このため、A鑑定業者が 30 個を Si2 にしたのに対して、B鑑定業者で 80 個としたなら、
その後鑑定依頼はB鑑定所に流れることになる。」と指摘しています。 鑑定業者は業者
間で監視や、基準の明確化などに取り組んでいるようですが、現状が消費者、購入者にと
って到底満足できる状態でないことも確かです。
しかし、逆に考えれば、この記事は良心的な鑑定機関も存在することを証明してもいる訳
で、この様な良心的な機関が、将来、権威を持つようになることを期待しましょう。
以上に見てきたように日本の業者の売らんかなの姿勢は限度を越えたものとなっています。
それに対して、購入者(消費者)の知識レベルは余りにも低いのです。
価格的には日本は全世界の宝飾用ダイヤモンドの4分の1以上を購入しているのです。
消費大国日本のこれが悲しむべき現実なのです。
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